家に帰りたいを叶える

T様 80歳代 女性 要介護4 病歴:心不全、完全房室ブロック、ペースメーカー、心不全、子宮頸癌術後、癒着性腸閉塞術後、うつ病。
認知症夫と二人暮らし、近隣にKP長女家族、次女それぞれ居住あり。

1年前に心不全増悪で入院したのをきっかけにもともと神経質だったこともあり、被害妄想が始まり、老人性うつ状態となり、精神科、内科訪問診療導入となった。
体調や気分の上がり下がりはあるものの、ご家族のサポートの元に自宅療養できていた。そんな中、尿路感染症とそれに伴う心不全増悪、急性腸炎にて再入院することとなった。

約2か月間にわたる入院生活では抗生剤投与や利尿剤調整などの加療に加え精密検査が行われた。意欲低下と食思不振で低栄養状態となり中心静脈栄養での管理が必要となった。
無表情で1日中ベッド上でじっと天井を見て過ごす時間が多くなり、尿意便意がなく、オムツでの排泄で、常に倦怠感が強くうつろな眼でため息をついていた。

本人も家族も自宅退院を強く希望していた為、ご家族や相談支援機関、医療機関等が連携して自宅での受け入れ体制を整え、自宅退院する事ができた。
自宅での中心静脈点滴管理、カフティポンプ管理も娘さんたちが積極的に指導を受け実施することができた。

退院日当日に訪問すると、パチッと目を開き「いらっしゃい。」と微笑みを見せた。筋力が落ちて痩せた印象だが全身の浮腫みが強く出ていた。
入院中はじっとしている事がくADL低下もみられたため、自宅玄関から自室まで自力歩行できた事にご家族は驚いていた。自宅に戻ってきてからは経口摂取が徐々にできるようになった。
栄養補助ドリンクやアイス、トマト、お粥などを中心に好きな物を口にするようになった。口渇による飲水要求は強く1500mlの飲水制限あり。200mlの氷水に目を輝かしにっこり笑顔で瞬時に飲み干し、また欲しいという様子。
飲水制限量を超すスピードで要求することもしばしばで、要求が通らない時は子供が駄々をこねるように、やけになってベッドに勢いよく倒れて見せる事があった。

入院での筋力ADL低下で自宅に帰ってきてからもほぼベッド上での生活。1日中テレビドラマを流し、時々起きては氷水を飲む事を繰り返す。
CVポートからの持続点滴によりやや行動が制限される影響もあるが、動きたいという意欲は感じ取れなかった。
うつ病に対しての内服薬は入院を機に中断し、以前のような自殺企図や強い落ち込みはない。気力低下があり口数は少ないが穏やかに過ごしていた。

そんな中「自宅に帰って来られて(気分は)最高。何もして欲しいことはない。」と気持ちを表出してくださることがあった。
体調回復していた矢先に、残念ながら感染症を再発し再入院になってしまった。
免疫力低下した方の在宅での管理の難しさを痛感したが、自分が過ごしたいと思う場所で、自分のペースで好きなように生活すること、当たり前だと思っている何気ない日常が大きな喜びとなり精神的安定にも繋がると感じた。
利用者様の意思を尊重しながら、それを形にしていく事ができるのは訪問看護の強みだと思うので、利用者様に寄り添える時間を大切に看護していきたいと考える。(吉澤)